事業継続に必要な企業防災マニュアルの作り方とは? BCPとの違いや併せて実施したい対策を解説

2024年3月26日
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自然災害が発生したときに適切に対処するためには、防災マニュアルの作成・整備が不可欠です。しかし、「現状の防災マニュアルでは内容が不十分なのでは?」「新たにマニュアルを作りたいが、どのような手順で何を意識して作成すれば良いかわからない」といったお悩みを持つ企業の防災担当者の方もいるのではないでしょうか。本記事では、防災マニュアルが企業にとって必要な理由や、作成の手順、押さえておきたい作成のポイントなどを解説します。

事業継続に必要な企業防災マニュアルの作り方とは? BCPとの違いや併せて実施したい対策を解説 事業継続に必要な企業防災マニュアルの作り方とは? BCPとの違いや併せて実施したい対策を解説

企業の防災マニュアルとは

防災マニュアルとは、災害発生時に人員の生命と安全を確保するため、各自がとるべき対応を明記した文書のことです。
防災マニュアルには、災害時の初期対応、緊急避難、救助活動など、具体的な対策が詳細に盛り込まれており、災害発生時に各人員に割り振られる役割も明記されています。
マニュアルを確実かつ適切に運用するためには、日頃から各自が内容をよく理解し、いつ発生するか分からない災害発生時に自身の役割を冷静に遂行できるよう、事前にしっかりと準備しておくことが重要です。

防災マニュアルとBCPの違い

BCP

防災マニュアルと類似したものにBCPがあります。BCP (Business Continuity Plan)とは、日本語で「事業継続計画」のことであり、災害など非常事態が発生した際に企業が被るダメージを最小化し、速やかに事業を復旧させるための計画のことです。

防災マニュアルは、災害発生時に被害を抑え、従業員の生命と安全を守ることが第一の目的である一方、BCPは「事業継続」に主眼が置かれています。そのため、BCPでは人命だけでなく、企業が保有する資産やインフラを守ることも前提となり、さらにサプライチェーンを構成する取引先の事業継続にも配慮する必要があります。
また、防災マニュアルでは、基本的に自然災害への対応が念頭に置かれていますが、BCPは自然災害に加え、テロやサイバー攻撃、感染症などあらゆる危機を想定することも違う点です。

防災マニュアルとBCPは決して無関係なものではなく、防災マニュアルに基づいて人的被害を最小化したうえで、BCPを通じて事業継続を図ったり、速やかに復旧させたりすることが求められます。

防災マニュアルが必要な理由

防災対策

自然災害はいつどこで発生するか分かりません。日本は地震や台風、津波、大雨・大雪、火山の噴火など、あらゆる自然災害のリスクにさらされており、防災の意識と対策を万全にすることは企業にとって不可欠です。災害に対する備えが不十分だと、実際に災害が発生したときに適切な対応がとれなくなり、被害の拡大を招きかねません。特に初期対応に問題があると、地震発生後の火災の拡大など、二次被害を防ぐことが難しくなります。

内閣府が実施した調査結果によると、災害発生に備え、大企業では「訓練の開始・見直し」や、「リスクの認識と業務への影響の分析」「安否確認や相互連絡のためのシステム導入」といった、社内全体に関するリスクへの関心が高いことがわかります。
一方で、中堅企業は大企業と比較して、災害時のリスクに対する防災意識が低い傾向にあります。中堅企業は大企業に比べ従業員数が少なく、防災に関して十分な人的リソースを充てられないこともあるため、防災マニュアルを整備して効率的に災害対応ができる体制を構築する必要性はより高いと言えます。

・災害対応で新たに取り組みたいこと
内閣府「令和3年度 企業の事業継続及び防災に関する実態調査」回答出典:内閣府「令和3年度 企業の事業継続及び防災に関する実態調査」

以下の記事では、災害時における企業のリスクと防災対策の基礎について解説していますので、あわせてご覧ください。
企業防災とは?重要性と対策のポイントを解説

防災マニュアルの作成手順

他社のマニュアルをほとんど流用したような内容では、自社に適したものは作成できません。自社の業務内容や組織・人員の構成・規模などを踏まえて最適なものを作成することが重要です。マニュアル作成は大きく以下の手順で進めていきます。

災害時の組織体制と役割分担を決める

会議

災害に対しては「人命を守ること」が最優先の目的となり、そのためには災害時に適した組織体制と役割分担を決めることが不可欠です。そこで、まずは災害対策全体を指揮・統括する対策本部(防災対策会議)を立ち上げる必要があります。通常、対策本部長には社長など組織のトップが就き、その下に各組織(班)が連なり、必要な対応をとっていきます。
対策本部を立ち上げる際の基準(例えば震度6弱以上で設置するなど)や設置場所(本社ビル、およびその代替となる支社など)を決めておくことも必要です。

以下は、災害発生時における組織体制と役割分担の一例です。

・対策本部長(全体の指揮・統括)
・総務班(対策本部の設置・運営、各班の支援等)
・救助・救護班(災害現場での負傷者の救助・応急処置等)
・情報収集・連絡班(災害情報の収集・分析、各班への情報伝達等)
・避難誘導班(避難場所への誘導、避難支援等)
・消火班(火災が発生した際の初期消火・延焼防止等)
・物資管理班(災害時に必要な物資の調達や管理、配布等)
・広報班(外部からの問い合わせ対応、情報発信等)

上記はあくまでも一例ですが、災害発生時には予期せぬ事態が生じることも珍しくないため、対策本部長をはじめ、各班の長などはあらかじめ代行者を複数決めておくのが良いでしょう。

情報収集の体制とその内容を記載する

災害発生時の情報収集の方法や、収集すべき情報の種類・内容、情報の共有や活用の方法などについても決めておき、マニュアルにわかりやすく記載しておくことが必要です。

以下は、主に収集すべき情報の例です。

・災害状況の把握、周辺地域の被災状況の確認
・通信手段の確保
・従業員への情報伝達
・従業員の安否確認
・交通機関や道路の状況把握

災害発生時に情報を収集するツールとしては、テレビやラジオ、インターネット、新聞、FAXなどがあります。近年ではSNSもタイムリーな情報収集の手段として挙げられますが、真偽が不明な情報が流れてくることも多いため、他の情報源とも照らし合わせながら慎重に判断する必要があります。

また、災害時には停電が発生したり電話回線やインターネット回線が不安定になったりすることも珍しくないため、防災無線や災害用伝言サービス等を通じた情報収集も必要になります。

緊急連絡網を記載する

連絡

休日や時間外に災害が発生した際にも迅速な情報共有ができるよう、緊急連絡網を整備する必要もあります。誰から誰に連絡をするのかという連絡の階層・フローを可視化し、連絡の手段はどうするか、連絡が取れない(安否がわからない)場合にはどうすべきか、といったことも明記しておきます。
また、従業員の異動や入社、退職などがあるたびに更新しておくことも必要です。

初期対応・避難について整理する

災害時に被害の拡大を抑えるためには、迅速な初期対応や避難の実施が何よりも大切です。そのため、防災マニュアルには従業員がとるべき初期対応の内容やフロー、避難場所、必要なものなどを記載しておく必要があります。災害の種類や規模によって初期対応や避難場所などは変わる可能性があるため、起こり得る災害を複数想定し、それぞれに応じた内容を記載しておくことも大切です。

以下は、初期対応の一例です。

・消防や警察への通報(必要に応じて)
・負傷者の救護、火災発生時の初期消火と延焼防止
・津波や土砂災害、火災などが発生した際の緊急の避難場所

こうした初期対応に加えて、従業員の安全・安否確認も必須です。負傷者や安否不明者がいないか確認し、いる場合にはどのような対応をとるべきかについてマニュアルに記載しておくことで、捜索や救護等を迅速に行えるようになります。

防災マニュアルには、避難場所や災害を想定した対応などについて、誰が見ても分かるように記載することが必須です。いざというときに防災設備がしっかりと機能するよう、定期的に点検を行うなど日ごろの管理も大切です。また、防災マニュアル作成後は、全従業員に周知し、定期的な訓練などを通じて実際に適切な行動をとれるように準備しておく必要があります。

防災マニュアルを作成する際のポイント

非常時に防災マニュアルが役立つようにするために、以下の3点を意識して作成する必要があります。

5W2Hを意識する

5W1H

防災マニュアルを作成する際には、「5W2H」を意識することが重要です。5W2Hとは、情報をわかりやすく、かつ論理的に整理、収集、伝達するためのフレームワークのことであり、「W」から始まる5つの語と、「H」から始まる2つの語で構成されます。「5W2H」のフレームワークはビジネスの現場でよく使用されますが、防災マニュアルにも応用可能です。具体的には以下の7つの観点を踏まえて作成していくことで、過不足のない情報をマニュアルに盛り込むことができます。

・WHY(どのような目的で実施するのか)
・WHAT(何を行うのか)
・WHEN(実施の順序、タイミング)
・WHO(誰が実施するのか)
・WHERE(どこで実施するのか)
・HOW TO(どのように行うのか、方法・手段)
・HOW MUCH(備蓄品などの数量)

また、非常時はマニュアルを熟読する暇はなく、短時間で必要な情報を読み取る必要があるため、文章だけでなく、フローチャートや一覧表、画像などを活用して、視覚的にすぐに理解できるような工夫も必要です。

3部構成で簡潔に作成する

マニュアル作成においては、間違いや抜け漏れがないように詳細に記載しようとする意識が働きがちですが、あまりにも多くの項目を入れ込んだり、構成を複雑にしてしまったりすると、必要な場面でどの箇所を読めば良いかわからなくなる可能性があります。

例えば、以下のように大まかに3つの構成に分けて、伝えるべきポイントを簡潔にまとめることがおすすめです。

1.チェックリスト
点検すべき箇所をチェックできているか確認するため、表になっているとわかりやすいでしょう。

2.報告事項をフォーマット化する
報告が必要な事項に関しては、ゼロから文章を書こうとすると多くの時間と労力をとられてしまいます。そこでフォーマットを用意しておき、必要な事項はそれに従って記載していくと良いでしょう。フォーマットの形式は、記入者が何をどこに記載すれば良いか一目でわかるよう、なるべく簡潔にしておくことがおすすめです。

3.用語集を設置し、必要な知識を把握できるようにする
防災関連の用語や表現には、普段見聞きすることの少ないものもあります。マニュアルの中に用語集を設置し、マニュアル内の用語や表現の意味を知っておくことで、非常時にマニュアルの内容をスムーズに理解でき、適切な行動をとれるようになります。

内容を定期的に見直す

ノートとボールペン

マニュアルは一度作成したら終わりではなく、定期的に更新する必要があります。マニュアルに基づいた訓練を実施し、そこで見えた課題に応じてブラッシュアップしておくことが大切です。
また、人員の入れ替わりや組織の改編などがあれば、災害発生時の組織構成や役割分担も変わってくる可能性があるため、変更があればすぐに反映し、改訂する必要があります。災害に見舞われた場合にも、復旧が一段落した後に改善点を洗い出し、内容を更新・充実させていくことが重要です。

あわせて実施したい災害対策

防災マニュアルの整備は、企業が災害発生時に適切な行動をとるために不可欠であり、日ごろから訓練の実施や備蓄品の準備・管理など、さまざまな対策をしておく必要があります。そうした防災対策の中でも、特に重要度が高いものが停電対策です。
停電が発生すると救護や避難などに大きな影響が出るため、停電対策には万全を期すことが求められます。

以下の資料では、防災担当者向けに企業が回避すべき停電によるリスクと、取り組むべき4つの停電対策についてご紹介していますので、ぜひご覧ください。

お役立ち資料

企業が取り組むべき 4つの停電対策
本資料では、防災担当者向けに企業が回避すべき停電によるリスクと、 企業が取り組むべき4つの停電対策についてご紹介いたします。 近年、激甚化・頻発化する自然災害を起因に、停電が発生する可能性は 決して低くはありません。 停電が企業にもたらすリスクをあらかじめ知り、対策を立てることが、 防災対策の観点からも非常に重要になります。 近年の災害状況や、災害に対する国民意識の変化についてもご紹介しておりますので、 ご興味がある方はぜひご覧ください。 【こんな方におすすめ】 ・停電が発生したときのリスクを知っておきたい ・停電への備えをしておきたいが、具体的に何をすればよいかわからない ・すぐにできる停電対策があれば知りたい
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