非常用照明の設置基準とは?構造や設置義務が免除される場合について解説
自然災害や停電発生時などの非常時に安全に避難するため、多くの建物では非常用の照明装置の設置が義務付けられています。しかし、どのような照明器具をどこに設置すれば良いかわからないという方もいるのではないでしょうか?
そこで本記事では、非常用照明器具の種類や設置基準、非常用照明器具に求められる構造などを解説します。
非常用照明器具とは
非常用照明器具は、地震、火災、停電などの緊急事態が発生した際、建物内にいる人々が安全に避難できるよう、室内や避難経路を照らすための照明器具です。
地震や火災などの非常事態が発生すると人々がパニックに陥り、安全かつ迅速な避難が難しくなる場合があります。特に停電が発生した場合、暗闇の中で速やかに避難するのは容易ではありません。
非常用照明器具は通常電源が遮断されても内臓バッテリーや非常用電源により機能するため、停電時にも避難経路を照らすことができます。これにより暗闇の中でパニックになるのを防ぎ、冷静な判断のもと避難経路を確保しつつ、障害物や段差などを確認しやすくなります。
非常用照明器具(非常灯)の設置義務
非常用照明器具は、建築基準法によって設置を義務付けられており、建物を新築または維持・管理する際には、法律に則って適切に設置しなければなりません。
また、非常用照明は建築基準法第12条に規定されている検査項目の1つであり、建物の所有者・管理者は、一級もしくは二級建築士(有資格者)に依頼し、定期的に検査を実施することとされています。この点検は「建築物等の12条点検」とも呼ばれ、建物の安全性を確保するうえで必須の点検です。
なお、検査後は検査結果を地方自治体に報告する必要があり、点検報告を怠った場合には法令違反となり、罰則が科される可能性があります。
誘導灯とは
非常用照明器具(非常灯)のほかに誘導灯という照明器具があります。
誘導灯は消防法によって定められた照明器具であり、災害時に人々が安全に避難できるように、避難口や避難経路を矢印で示し、避難する道筋をガイドする照明器具です。白色の背景に緑色の人間や矢印のピクトグラムが描かれているのが一般的です。主に避難口や廊下、階段などに設置されます。
誘導灯の種類には以下のものがあります。
・避難口誘導灯:直通階段の出入り口のような避難口の位置を示す誘導灯であり、緑色の背景に白色の矢印が描かれているものが一般的です。
・通路誘導灯:廊下や階段などの上に設置し、避難先の方向を示す誘導灯であり、白色の背景に緑色の矢印が一般的です。
・客席誘導灯:劇場や映画館などの客席に設置され、足元を照らす誘導灯です。客席の照度が0.2ルクス以上になるように設置する必要があります。
・階段通路誘導灯:階段または傾斜路に設置され、周囲を照らし、階数を把握できるようにする誘導灯です。
上記は消防法で設置が義務付けられており、避難口誘導灯・通路誘導灯・客席誘導灯は例外を除き、24時間点灯させる必要があります。また、耐熱性よりも、視認性の高さが求められます。
誘導灯と非常用照明器具(非常灯)の違い
誘導灯と非常用照明器具(非常灯)は、いずれも非常時における安全確保のための照明設備であり、安全かつ迅速に避難できるように設置が義務付けられている設備ですが、その目的は若干異なります。
前述の通り、誘導灯は避難口や廊下などに設置し避難方向を示すための照明ですが、非常用照明器具(非常灯)は避難口だけでなく室内を照らすことで明るさを一定に保ち、円滑な避難を支援するための照明です。
夜間や窓のない地下などで電源が落ちてしまった場合は、誘導灯だけの灯では安全に避難することは難しいため、非常用照明器具(非常灯)の設置が建築基準法によって義務づけられています。
耐熱性があり、一定時間点灯し続けることが非常灯に求められる条件です。
非常用照明器具(非常灯)に求められる構造
以下では、非常用照明器具(非常灯)に求められる構造について、照明器具の種類と照度、電気配線、電源に分けて解説します。
照明器具の種類と必要な照度
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白熱灯 | 蛍光灯 | LED |
非常用照明(非常灯)として使用が認められている照明器具の種類は、白熱灯、蛍光灯、LEDの3種類です。以前は白熱灯と蛍光灯のみが認められていましたが、建設省告示の改正によりLEDも非常用光源として追加されました。いずれも周囲温度70℃の中で30分間点灯を維持できるものであることや、常用電源が断たれたとき、予備電源により即時点灯する光源を有することなどの条件を満たしている必要があります。
また、白熱灯の場合は床面において1ルクス以上(水平面照度)、蛍光灯またはLEDは床面において2ルクス以上(同前)という照度条件を満たしていることも必須です。
このように、非常用照明(非常灯)は停電時や高温環境でも点灯を維持でき、かつ一定以上の照度を持つという条件が求められます。
電気配線
非常用照明は電気配線の面でも、以下のように一定の条件を満たしている必要があります。
・耐火性能:非常用照明につながる常用電源(予備電源回路を含む)の配線は、すべて耐火措置が必要です。
・配線の独立性:非常用照明の配線は、他の配線と独立して設置します。これにより、他の電気系統の故障が非常用照明に影響を与えないようにします。
・配線の保護:配線は物理的なダメージを受けないよう、適切な保護が必要です。
電源
非常用照明器具(非常灯)には、停電時にも機能するよう予備電源を備える必要があります。予備電源は通常、蓄電池設備、あるいは蓄電池設備と自家用発電装置を併用したものを使用し、停電後充電を要さずに30分間以上の放電に耐えることが条件となっています。
非常用照明の設置基準
以下では、非常用照明器具(非常灯)と誘導灯・誘導標識の設置基準について説明します。
非常用照明器具の設置基準
非常用照明器具(非常灯)は建築基準法施行令第126条の4に定められており、設置義務の有無は、建築物の種類や規模によって変わるため確認が必要です。
非常用照明器具(非常灯)の設置が義務づけられている場所は、以下の通りです。
1.下記①~④の用途に供する特殊建築物
① 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場等
② 病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎等
③ 学校、体育館等
④ 百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場等
2.階数が3以上で延べ面積が500㎡を超える建築物
3.延べ面積が1000㎡を超える建築物
4.無窓の居室を有する建築物
映画館 |
| 病院 |
| 体育館 |
| スーパー |
上記の建築物の居室、および居室から地上に通ずる廊下、階段その他の通路(採光上有効に直接外気に開放された通路を除く)等の部分には、非常用照明器具(非常灯)を設けなければなりません。
誘導灯・誘導標識の設置基準
誘導灯は消防法施行令第26条、消防法施行規則第28条3と各地方自治体の火災予防条例などによって定められいます。
また、2010年4月に消防庁から発出されたガイドライン(消防予第177号)では、高輝度蓄光式誘導標識の使用にあたり、「必要な照度を確保することができない場合にあっては、誘導灯(又は「光を発する帯状の標示」等)により誘導表示を行うことが必要であること。」と明記されています。
※出典:総務省消防庁『消防予第177号 蓄光式誘導標識等に係る運用について(通知)(平成22年4月9日)』
そのため、「消防法上、設置義務のある箇所」や「避難安全上、誘導灯でなければならない場所」については、誘導灯を設置する必要がありますが、法令上問題がない箇所においては、高輝度蓄光式誘導標識を代替設置することが可能です。
代替可能な施設は消防法施行令「防火対象物・別表第一」に示されている5項ロの共同住宅、7項の学校、8項の図書館等、12項の工場、14項の倉庫、16項ロにあたるオフィスビルなどで、主には1階~10階までの有窓階が対象となります。
ただし、現在設置されている誘導灯は、消防設備として消防署に届出されていることから、代替には所轄消防署の許可が必要です。
※出典:総務省消防庁『消防法施行令 別表第1』
非常用照明器具(非常灯)の設置義務が免除される場合
非常用照明器具(非常灯)は、以下の条件を満たす場合に設置義務の一部またはすべてが免除される場合があります。
・一戸建の住宅または長屋もしくは共同住宅の住戸
・病院の病室、下宿の宿泊室または寄宿舎の寝室等
・学校等
・避難階または避難階の直上階もしくは直下階の居室で避難上支障がないもの等
また、階段・傾斜路の誘導灯は、非常用照明器具(非常灯)によって避難上必要な照度が確保され、避難の方向の確認ができる場合は、設置が免除されます。
まとめ
非常用の照明装置は一部の例外を除き設置が義務付けられており、災害や停電発生時などに安全かつスムーズに避難するために必須の設備です。
また、照度や配線、電源構造など細かな条件が定められているため、そうした条件を満たす照明設備を導入することが大切です。
非常用照明器具(非常灯)に加えて、非常時に役に立つアイテムとして蓄光テープがあります。
蓄光テープは蓄えた光を暗闇で放出するテープであり、電源がない状態でも一定時間視界を確保することが可能です。階段や障害物などの危険箇所の明示をすることで、停電時における安全な避難をサポートします。
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