建設業における安全管理とは。建設現場で想定される事故・リスクについて解説
建設業では大型の機械や資材を扱っており、高所での作業も多いことなどから、労働災害が起きやすい特徴があります。重大な事故により作業員の生命や健康に危険が及ばないよう、建設現場ではさまざまな安全対策を講じることが不可欠です。本記事では、建設業において事故を防ぐためにやるべき安全対策や、事故発生後の対応策などを解説します。
建設現場における安全管理とは
建設現場における安全管理とは、建設現場で発生する労働事故の発生を防ぎ、安全に業務を行える環境を整備する取り組みのことです。原価管理や品質管理、工程管理をはじめとする「施行管理業務」を構成する要素であり、安全対策を計画、実行し、維持するプロセス全体を指します。
安全管理の代表例としては、例えば高所からの落下を防ぐための手すりの設置や、機器トラブルを避けるための点検作業など、作業員の身を守る業務があります。また、安全方針の策定、リスクアセスメントやハザード分析の実施、安全基準や法規制の遵守、監視・評価、改善活動なども含まれます。
安全管理が必要な理由
建設現場には多くの危険が潜んでおり、厳格な安全管理が求められています。労働安全衛生法に基づき、管理者や安全担当者は安全教育の実施、保護具の使用、危険箇所の識別といった基本対策を徹底することで、事故発生の可能性を大幅に減少させることが可能です。
また、安全管理は従業員の安全を確保する取り組みであることはもちろん、事業を成功させる上でも重要な取り組みです。労働事故が発生すると業務が一定期間ストップして工期に遅れが生じたり、それにより発注元の企業の信頼を失ったりして、業績に悪影響が及ぶ可能性があります。
近年は技術の進歩により、安全管理方法が進化し、それに伴い事故のリスクを低減する新たなソリューションや最新のテクノロジーが登場しています。例えば、ドローンを用いた現場監視や、ウェアラブルデバイスを用いた健康管理システムなどが導入されており、安全でない動きや危険な状況が発生していないかリアルタイムで把握し、事故につながる前に対策を講じられます。
とはいえ、こうした最新のテクノロジーを導入しても事故を完全になくすことはできないため、万が一の事態に備えた対策が重要です。
以下の記事では、建設現場を含めた職場全般における安全対策について解説しています。
職場別の安全対策のポイントや具体的な取り組みについて解説
労働安全衛生法とは
建設業の現場での安全管理と深く関係する法律に「労働安全衛生法」があります。労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を守る法律であり、特に建設業界において適用が厳格である点が特徴です。建設現場では、重量物の搬送、高所作業、電気作業など多くの危険があります。こうした建設業特有の危険性を考慮し、この法律では安全教育の徹底、専任の安全管理者の配置、定期的な安全性のチェック、事故発生時の迅速な報告と対策が義務付けられています。
建設業界では、日常の安全点検や危険予知活動が重要です。現場の安全基準を常にチェックし、必要に応じて適宜更新することが求められます。安全管理の徹底は作業効率の向上にもつながり、プロジェクトの成功に寄与します。
また、新たな技術や機器の活用は、事故リスクを低減し労働環境を改善するために効果的です。これにより、建設業で働くすべての人の安全と健康が保護され、より良い労働環境が実現されます。
事故を防ぐためにすべき安全対策
建設現場における労災事故は、作業員の生命を脅かすだけでなく、プロジェクトの遅延や法的責任問題を引き起こす可能性があるため、現場管理者や安全担当者は事故防止を最優先事項として扱わなければなりません。
本章では、事故防止のためにやるべき10の安全対策をご紹介します。
リスクアセスメントの実施
リスクアセスメントは、建設現場に潜む危険を特定し、評価するプロセスです。これにより、可能性のある事故や災害のリスクを特定し、それに対する適切な対策を立案できます。リスクアセスメントは、安全衛生管理計画の一部として行われることが一般的です。具体的には、①危険性は有害性を特定し、②リスクを見積って、リスクを優先順位づけし、③リスクの低減措置を検討し、④リスク低減措置を実施することを体系的に進めます。(労働安全衛生法第28条の2)
安全衛生管理計画の策定
安全衛生管理計画は、従業員の安全と衛生を確保するために企業が策定する、建設プロジェクトの安全管理に関する計画や手順のことです。1年単位で計画を立て、今年度に行う重要な施策や定期的に行うべき活動などを記載します。
安全衛生管理計画の記載事項としては、主に以下のものがあります。
・安全衛生管理の基本方針:
現場で意識すべき考え方や方針
・安全衛生の目標:
安全管理に関する課題の達成目標
・特定された危険性または有害性:
危険性や有害性のある、特に気を付けるべき課題
・ 安全衛生管理体制:
安全衛生管理の責任者・担当者 など
計画的に実施するために、施策ごとの実施内容や期間、達成すべき目標、留意点なども記載すると良いでしょう。
機器の定期的なメンテナンス・点検
故障や不具合のある機器を使用すると、重大な事故につながる可能性があります。そのため、機器を定期的にメンテナンス・点検して、故障や誤作動が生じることを可能なかぎり防ぐことが不可欠です。
年に1回といった頻度での定期的なメンテナンスのほか、災害の発生後に異常がないか点検したり、日々の業務を始める前にルーティンとして簡単な点検を行ったりすることも大切です。点検すべき機器やその内容を一覧表にして、チェックリストとして活用すると効率的に作業を行えます。
機器や工具の安全性を保証するためには、専門の技術者による定期的な点検が必要です。これらの点検では、詳細かつ厳格なチェックリストを用いて、機械の小さな異常も見逃さないようにしなければなりません。実際に、故障が原因で発生する事故は、適切なメンテナンスによって大幅に減少させることができます。設備の小さな不具合を早期に発見し対処することで、大きな事故へのリスクを効果的に低減できます。
上下・高所作業時の安全対策
上下作業や高所作業を伴う建設現場では、モノを落として下にいる作業員や通行人に当たるなどの重大事故が発生するリスクがあります。
上下作業を行う場合には、作業員同士で声を掛け合って安全に作業する意識を持つことはもちろん、下に落下防止ネットを設置して万が一の事態に備えるなどの対策が必要です。
また、高所作業では転落防止のため、安全帯の着用、手すりの設置、足場の確保など、適切な対策をとる必要があります。
工法の確認
不適切な工法や手順を用いると、思わぬ事故のリスクが高まるため、作業を開始する前に正しい工法や手順を十分に確認することが大切です。
作業の手順を記載したマニュアルなどを作成し、従業員に配布した上で確認させるなど、ルール順守の取り組みを徹底することが効果的です。元方事業者は、現場が正しい工法を守っているか現場を巡視すると良いでしょう。
危険予知訓練(KYT)の実施
危険予知訓練(KYT)とは、作業や職場に潜む危険要因を発見し、対策を検討することで労働災害の防止を図る訓練のことです。危険予知訓練を導入し、作業現場で定期的に実施することで、作業員自身が日々の業務中に潜在的な危険やリスクを事前に認識し、即座に適切な対策をとる能力が培われます。
具体的なトレーニング方法としては、現場で起こる可能性のあるさまざまな事故シナリオを想定し、それに対する最適な対応策をグループディスカッション形式で議論することが一般的です。このプロセスを通じて、個々の作業員だけでなく、チーム全体の危機管理能力を高める効果も期待できます。
5Sの徹底
5Sとは、「整理」、「整頓」、「清掃」、「清潔」、「しつけ」の頭文字を取った言葉で、職場の安全と従業員の健康を守り、生産性の向上を目指す活動のことです。5Sを徹底して安全かつ快適な作業環境を整備することで、モノにつまずいて転倒するリスクなどを減らすことができ、また機器や工具の不具合に気付きやすくなるなど、現場の安全管理が容易になり、事故のリスクを減らすことができます。
ヒヤリ・ハットの共有と周知
ヒヤリ・ハットとは、重大な事故は発生しなかったものの、直結してもおかしくない一歩手前の事例のことです。「ハインリッヒの法則」によると、1件の重大事故の裏に29件の軽傷事故、300件のヒヤリ・ハットがあると言われており、ヒヤリ・ハットを見逃さずに拾い上げ、改善につなげることが労働災害を防ぐ上で非常に重要です。
ヒヤリ・ハットに該当する出来事を自身が経験したり、同僚がヒヤリ・ハットを起こしたのを目撃したりした場合は、その事例を記録し、職場全体で共有・周知することで、取り返しのつかない事故が発生するリスクを抑えることができます。
作業員の体調管理
疲労や体調不良は集中力を低下させ、事故のリスクを高めるため、作業員の体調管理も事故防止に欠かせません。
適切な休憩時間を確保したり、長時間労働が発生しないよう人材の確保や人員配置の最適化を進めたりするなど、作業員が心身ともに健康な状態で働けるような環境を整備することが大切です。
労災発生時に備えた対策
以上のような対策を進めても、労働災害や事故を完全になくすことは困難です。そこで、労災が発生した場合に備えて、適切な対応策を準備しておくことも重要です。
救急体制の整備や、関係機関との連携など、労働災害発生後に迅速かつ適切な対応ができるよう事前に対策を講じておく必要があります。
また、事故原因の調査・報告や再発防止対策の整備など、事故発生後に組織として適切な対処ができるような体制づくりも必要です。
事故発生後の対応策
建設現場での事故については、未然に防ぐ努力が最も重要ですが、すべてのリスクをゼロにすることは困難であるため、事故が発生した際に迅速かつ的確な対応ができるようにすることが欠かせません。事故発生後に即座に実施する対応としては、以下の二つのステップが中心となります。
1.労災事故の応急措置
応急措置は、事故発生時に真っ先にやるべき初期対応であり、怪我人の安全を確保し、さらなる事故の拡大を防ぐことが目的です。具体的には、事故現場における危険を排除し(稼働中の機械の停止など)、怪我人に対し迅速な救急処置を施し、必要に応じて医療機関に連絡・搬送します。この段階で的確かつ迅速な行動を取ることが、重傷化を防ぐ鍵です。
2.事故報告プロセス
労災事故が発生した場合、法律に基づいて適切な報告を確実に行う必要があります。例えば、事故の詳細を記録し、労働基準監督署や保険会社へ報告書を提出することなどが必要です。
特に労働基準監督署に対しては、4日以上の休業を伴う労災の場合はすみやかに報告することが法令により義務付けられています(休業期間が4日未満の場合は、四半期に一度の報告が求められます)。この報告プロセスを通じて、将来の再発防止策を検討するための重要な情報を集めることができます。
また、事故の詳細を把握し次第、直ちに上司や安全管理者に報告し、重大な被害が生じている場合はで警察や消防、救急車を手配します。
これらの対応を確実に行うためには、事前の計画と準備が必須です。具体的には、全従業員が事故発生時に対応すべきことを理解するため、定期的に研修や訓練等を実施する必要があります。また、応急処置キットの備品を完備し、それらが使用可能な状態にあるか定期的にチェックすることも重要です。
これらのステップをチェックリストとしてまとめ、可視化し、現場で迅速に対応できるように準備することで、事故発生時の混乱を最小限にとどめ、効率的かつ効果的な安全管理を実現できます。
建設業界では安全が最優先です。万が一の事故に備え、これらの基本的な対応を徹底し、リスクを最小限に抑えることを常に心がけましょう。
安全に働ける作業現場づくりにおすすめの「蓄光テープ」
今回は建設における安全管理の対策を中心に解説しましたが、事故を減らすためには安全な作業現場の環境をいかに整備するかが重要です。例えば、暗所では周辺がよく見えず思わぬ事故が発生することが多いため、視認性を高める「蓄光テープ」の導入がおすすめです。
日東エルマテリアルが提供する「高輝度蓄光テープ エルクライト™ 」は、蛍光灯や太陽光などの光を蓄え、暗闇で発光することで目印の役割を果たします。暗所での階段や障害物の周りに貼ることで、真っ暗闇の状態でも危険な箇所を把握しやすくなり、安全に行動することができます。
高輝度蓄光テープ エルクライトの詳細については、下記のカタログをご覧ください。
また、停電発生時にも労働災害は発生しやすくなります。下記の資料では、企業が回避すべき停電によるリスクと、企業が取り組むべき4つの停電対策についてご紹介していますので、こちらもあわせてご覧ください。
お役立ち資料
企業が取り組むべき 4つの停電対策