工場における火災のリスクと対策とは?
避難に役立つツールもご紹介
工場では火災がしばしば発生しており、毎年各地で被害が出ています。
万が一火災が発生した際には迅速に避難し、消火・復旧活動にあたらなければなりません。
本記事では、工場火災の状況について概観したうえで、迅速に避難するための対策などをご紹介します。
近年の工場・作業場における火災状況
まずは、近年の工場・作業場における火災状況について見ていきます。
消防庁の取りまと めによると、令和4年に全国で発生した工場・作業場における火災件数は1,656件でした。 東京都内に絞って見てみると、最新の令和3年では74件であり、過去10年の中で2番目に火災が少ない年になったものの、前年比では+10件となっています。なお、過去10年の平均 発生件数は88件です。
工場火災・事例
実際に工場火災が発生した事例として、以下では新潟県村上市で発生した火災と東京都墨田区で発生した火災についてご紹介します。
新潟県村上市の工場火災
令和4年2月11日深夜、新潟県村上市にある製菓メーカーの工場から出火し、工場の南側にある建物が全焼。約11時間後に消し止められましたが、従業員6名が亡くなりました。
消防庁の事故調査報告によると、工場内のせんべいを乾燥する機械にお菓子のカスが溜まり、そこに熱が蓄積したことで発火したとされています。
東京都墨田区の工場火災
令和4年12月27日午前、東京都墨田区にある石鹸や化粧品を製造する工場から出火し、火元の工場と周辺の建物の計16棟が焼ける火災が発生しました。火災は約5時間後に消し止められましたが、出火当時工場には13名の従業員がおり、うち1人が煙を吸ってけがをしました。
この工場では化学薬品を扱っていたとの情報から、警察などが周辺の住民に避難を呼びかける事態となりました。
工場における火災の事例について紹介しましたが、次章では工場の火災におけるリスクについて説明します。
工場の火災におけるリスク
工場で火災が起きた際に想定されるリスクを紹介します。
爆発や毒ガス発生など二次被害が出るリスク
危険物や爆発物、燃えると有毒ガスが発生するものが貯蔵されている工場もあります。それらに引火した場合は環境汚染や人的被害につながってしまいます。
燃えると有毒が発生するものが無くても物品が火災時の化学反応により異臭を発する場合、工場内だけではなく、周辺地域にも大きな健康被害を与えてしまう可能性があります。
また、窒素や硫黄、銅といった金属は燃焼した際に発生する煤は非常に毒素が強いため、これを吸い込むと人体に重大な健康被害がおよぶ可能性が考えられるため、注意が必要です。
環境汚染のリスク
燃えないものでも貯蔵施設が壊れて周囲に有毒な物質が広範囲に流出することも考えられます。
工場の周囲が田や畑だった場合、環境汚染されれば耕作ができなくなってしまうこともあります。
河川や海のそばにある場合、水が汚染されるおそれもあります。
人的被害が拡大するリスク
工場は一般住宅より大きいため、煙や煤、悪臭だけでも近隣住民の避難が必要です。
毒ガスが発生したり環境汚染が起こったりした場合、周辺住民が転居しなければなりません。
火災から逃げ遅れてしまった方の火傷やけがを負う人的被害も考えられ、最悪の場合は、死亡事故になるリスクも考えられます。工場の種類によっては危険物の爆発による負傷や、落下した荷物の下敷きになってしまうといった事故もあります。
次章では火災が生じる原因や時間帯、燃焼の理論について説明します。
火災が生じる原因・時間帯・理論
火災はさまざまな要因が重なり発生します。具体的にどのような要因が存在するのか説明します。
火災における原因
全火災における出火原因としては、タバコが8.8%と最も多く、そのほか焚火(8.6%)、 コンロ(7.6%)、電気機器(5.4%)、火入れ(5.2%)などがあります。
また、工場・作業場の出火原因について見てみると、東京都では74件のうち、研磨機・印刷機などの「電気設備・器具等」が46件、大型ガスコンロや石油ストーブなどの「ガス・石油器具」が6件、「金属と金属の衝撃火花」が4件などとなっています。
時間別発生状況
次に、工場作業場における時間別の火災発生状況を見ていきます。
東京都を例にとると、 令和3年では6時~20時台に82.5%の火災が発生しており、多くの場合、作業員がいる状況 ・時間帯に火災が発生していると考えられます。
燃焼の理論
次に、ものがどのように燃えるのかについて見ていきます。
ものが燃焼するためには、「可燃物」「酸素」「熱」という三つの要素が必要です。これを「燃焼の三要素」と言います。
専門的に説明すれば、可燃物と空気中の酸素分子(支燃物)が高温かつ高速の酸化還元反 応を起こし、光エネルギーや熱エネルギーを発する現象を「燃焼」と呼びます。 燃焼を止めるためには、燃焼の三要素のうちいずれか一つを取り除く必要があります。
火災の三要素
「火災の三要素」を用いて火災の定義について説明します。
火災報告取扱要領では、火災について下記のように記されています。
「火災とは、人の意図に反して発生し若しくは拡大し、又は放火により発生して、消火の必要がある燃焼現象であって、これを消火するために消火施設又は同程度の効果のあるものの利用を必要とするもの、又は人の意図に反して発生し若しくは拡大した爆発現象をいう。」
この文脈から下記3つを火災の三要素と呼んでいます。
下記3つの要素がすべて含まれているものが火災とされますが、1つでも該当しなければ火災に当てはまりません。
※爆発現象は②③の有無にかかわらず火災に該当されます。
① 人の意図に反し、又は放火により発生すること。
② 消火の必要がある燃焼現象であること。
③ 消火施設又は同程度の効果のあるものの利用を必要とすること。
消火の三原則
先述の通り、燃焼の三要素のうち一つを取り除くことで燃焼は止まります。
消火の方法に は、取り除く要素に応じて「除去消火」、「冷却消火」、「窒息消火」の三つに分けられ ます。
「除去消火」
「除去消火」は、可燃物を取り除くことで消火する方法です。
たとえば、ガスの元栓を締 めることで「ガス」という可燃物の供給をシャットアウトする方法などが挙げられます。
「冷却消火」
「冷却消火」は、温度を下げることで熱を取り除く消火方法です。
「消火」というと水を かけるイメージがあるかもしれませんが、これは冷却消火の一例です。
「窒息消火」
「窒息消火」は、酸素の供給を絶つことで消火する方法です。
小学校の理科の実験で、ア ルコールランプに蓋をして火を止めた記憶があるのではないでしょうか。これは蓋をすることにより酸素を絶つ「窒息消火」の一例です。
BCPとは
火災は発生を予期することが難しいため、企業は発災後に適切な対応をとり、被害を最小限に抑える必要があります。 そこで重要になるのがBCP(事業継続計画:Businesscontinuity plan)です。
BCPとは、災害などの非常事態が発生した際に、企業が保有する資産へのダメージを最小化し、中核となる事業を素早く再開させるための方法や、平時から備えておくべきことなど記した計画のことです。
BCPの対象範囲は火災だけでなく、自然災害やテロ、感染症など非常事態全般に及びます。 BCPを策定していないために、緊急事態に遭遇した際の対応が遅れたり、不適切な対応をとってしまったりすると、事業の復旧に致命的な影響が生まれ、場合によっては廃業などにつながる可能性があります。
BCPの策定のポイント
BCPを策定する際には、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
・優先して復旧すべき中核事業を明確化する
企業の多くは複数の事業を行っていますが、非常事態が発生した際にどの事業を優先して 復旧・再開させるか明確化する必要があります。売上や利益率などが高い事業や、自社の 根幹にあたる事業は何か検討しておくことが重要です。
・想定されるリスクを洗い出す
火災や台風、地震などの災害や、サイバー攻撃、パンデミックなど、自社にとって起きた ら困るリスクを可能な限りリストアップします。リスクを洗い出すことで、それに対しど う対処すればよいか計画を立てやすくなります。
・中核事業の復旧時間の目標を立てる
復旧までの時間がかかるほど、機会損失などのコストがかさみます。復旧に欠けられる予 算や人的リソースなども加味しながら復旧期間の目標を定めましょう。
・事業を再開させるための代替策を用意
生産設備や事業拠点などが被害を受けたときに備え、代替となり得る施設や拠点を想定し ておきます。また、取引先が被災している可能性もあるため、調達先の代替案も用意して おくべきです。
避難について
BCPを策定しても、火災が発生する可能性をゼロにできるわけではありません。また、消火活動の実施が難しいこともあり、その場合には迅速な避難が求められます。
消防庁予防課が発表している「大規模倉庫における消防訓練の「目標時間算出シート」について」では、たとえば1,000㎡ 以上1,200㎡ 未満の出火区画の避難目標は5分、800㎡以 上1,000㎡未満の隣接区画においても7分と定められており、迅速に避難しなければなりません。
出典:消防庁予防課「大規模倉庫における消防訓練の 「目標時間算出シート」」について
しかし、火災が発生し避難を開始する際、停電が発生することも少なくありません。
迅速 な避難が求められる中、視界が確保できず避難が遅れる可能性もあるため、対策が必須です。 では、停電が発生した場合にも迅速に避難するためには、どのような対策が求められるの でしょうか。
避難時に役立つ「蓄光テープ」
停電発生時の避難に役立つツールとして「高輝度蓄光テープ」があります。
蓄光テープと は、蛍光灯や太陽光などの光を蓄え、暗闇で発光する粘着テープです。その中でもJIS規格の条件を満たし防災用途に開発されたテープは高輝度蓄光テープと呼ばれます。
蓄光テープには 蓄光顔料が含まれており、明るい場所に置かれれば何度も光を蓄えることができます。 火災時、避難する際は避難誘導灯を頼りに出口を目指しますが、煙は上方に上がるため、 高い所についている避難誘導灯は見えづらくなります。そうした場合に蓄光テープで誘導 できれば、その光を目印に迅速な避難が可能になります。
また、火災発生時には煙を吸わ ないよう姿勢を低くしますが、床に蓄光テープを貼ることで低い姿勢のまま安全に避難で きます。 上記の通り、蓄光テープは避難時にとても役立ちます。
蓄光テープなし
蓄光テープあり
次章では蓄光テープの使用方法や寿命、注意点について解説します。
蓄光テープの使用方法・寿命・注意点
使用方法
蓄光テープは、暗くなったときに目印や誘導路として表示したい場所に貼り付けます。
たとえば職場の廊下など、避難路に使用したい場所に矢印上に貼り付ける使い方が想定され ます。障害物のある場所に貼り付けたり、転倒や転落を防止するために階段などの段差部分に貼り付けたりすることも効果的です。また、懐中電灯やヘルメットなど非常時に使用する道具に貼り付けることで、停電時にもすぐに手に取れるようになります。
寿命
蓄光テープの寿命は一般に屋外環境の場合は数か月、屋内環境の場合はそれ以上とされています。
ただし、摩耗によって蓄光性能が落ちてしまうため、階段や廊下など人の行き来が多い場所で使用する場合は、より早いサイクルで貼り替える必要があります。
注意点
先述の通り、蓄光テープは何度でも光を蓄え放出できますが、蓄光顔料は水に弱いため、 雨にさらされやすい屋外などでの使用には向きません。 (ただし、後述のエルクライトシリーズは耐水顔料を使用しています)また、暗闇で時間が経つと発光する力が落ちるため、夕方にかけて徐々に暗くなるような 場所で使用すると、完全に日が落ちた頃には発光が弱くなってしまいます。そのため、普 段は照明で明るい屋内など、停電時に一気に暗くなるような場所に設置するのがおすすめです。
災害時の避難や防災目的で蓄光テープを選定する際には、防災用に利用できるJIS規格を満たしていることや、耐久性にすぐれていることを確認し、製品用途・使用環境に合った製品を選ぶことが大切です。
高輝度蓄光テープ エルクライト™ JB.JC.JDとは
「エルクライト™ JB.JC.JD」は、防災用途に開発された高輝度蓄光テープです。
JIS規格 を満たす3種類のグレード(JD、JC、JBクラス)を取り揃えており、災害時などに停電が 発生した際の避難誘導や手すり、段差、通路などの視認性向上に活用できます。
エルクライト™を廊下や階段など低位置に貼り付けることで、火災発生時に高いところにある避難誘 導灯が煙で見えにくく、低い姿勢を保たなくてはならない状況でも迅速に避難ができます 。 また、高い耐摩耗性や耐薬品性を誇り、屋外耐候性は約4~5年である点やマイナス20度から70度の幅広い温度環境で使用できる点、電気や機械を使用せずとも光るためトラブルの心配もありません。
非常電源装 置や電気式誘導灯を採用している企業様に対しても併用する事で非常に効果的に活用することができます。
通常の蓄光テープは使用している顔料が加水分解するため水に弱いですが、日東エルマテリアルが提供する蓄光テープは耐水性ある蓄光顔料を使用しているため屋外使用できます 。
高輝度蓄光テープの導入にご関心の事業者様は、下記よりお問合せください。
お役立ち資料
企業が取り組むべき 4つの停電対策